スーパールーキー

三浦皇成


夏競馬真っ盛り。
福島、新潟、函館、小倉。これからは札幌も。
有力ジョッキーはそれぞれの主戦場で夏を過ごし、武豊や岩田は海外にも。
サマーシリーズもそこそこ盛り上がっているし、何といっても2歳の若駒たちの登場にはわくわくさせられる。

昨日行われた今年最初の2歳重賞函館2歳ステークスを見事に差し切って、世代最初の重賞ウィナーになったのが新種牡馬キングカメハメハ産駒のフィフスペトル。
いきなりの重賞勝ち馬を生んだキングカメハメハもすごいが、このレースで最も注目を集めたのは、デビュー年の武豊を上回るスピードで勝ち鞍を量産し、ついに重賞勝ちも手にした若干18歳三浦皇成だろう。

武豊がデビュー年に上げた勝ち数は新人最多勝利記録の69勝。これまで誰も破れないと思われていたこの記録だけれど、三浦皇成はここまでで42勝を上げており、このままのペースでいけば軽く武豊の記録を上回る。
これは確かにすごいことだ。久し振りに現れた超新星かも知れない。
武豊クラスの騎手は何十年かに一人だが、三浦皇成がそのレベルにある可能性は十分にあり、だとしたら僕らは今歴史の目撃者になっていることになる。

所属厩舎の調教師である河野師の後押しも確かに強力だが、それに勝ち鞍で答えを出しているところに価値がある。
技術も新人離れしているし、何よりもレースに行っての度胸と冷静さは目を見張るものがある。

ただ、真価を問われるのはこれからだ。
福永祐一は初騎乗から2連勝し、その年53勝を上げて最多勝利新人騎手賞を獲った。武幸四郎はデビューから2日目で重賞マイラーズカップを勝ち、同じく最多勝利新人騎手賞。
この2人も三浦皇成と同じように騒がれたが、結局武豊クラスにはなり得ていない。

三浦皇成は今年おそらく武豊の新人騎手最多勝利記録を塗り替えるだろう。
だが、勝負は2年目以降だ。
武豊は2年目で113勝を上げ、史上最年少で関西リーディングジョッキーに輝き、菊花賞をスーパークリークで勝った。
他騎手からのマークが厳しくなり、斤量の恩恵がなくなってからさらにどれだけ勝ち鞍を伸ばせるか。G1という極限のプレッシャーがかかる舞台で、どれだけ輝きを放てるか。
2年目3年目、さらにはこれまで武豊が積み上げてきた記録のスピードと質量に遅れを取らず、追い越していくことは至難の業だ。
いつまで武豊と比較され続けられる存在でいられるか。僕らは今、歴史を目撃しているのか。
期待を持って、このスーパールーキーの今後に注目していきたい。

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その先へ

サイレンススズカ1

今でも、たまにサイレンススズカのことを思い出す。
今年の秋で、もうあれから10年になる。

サイレンススズカは新馬戦を圧勝したあと、すぐに弥生賞を使われ、2番人気に支持されている。それだけ関係者やファンの期待は高く、橋田満師が強くダービーを意識していた証拠だ。
ただ、この弥生賞ではゲート内で暴れて、挙句の果てにはゲートをくぐって出てしまい、外枠発走。さらには出遅れて、8着。
このレースに象徴されるように、ダービー(9着)にこそ駒を進めたものの、3歳時のサイレンススズカは有り余るスピードに気性が追い付いておらず、なんとか好位からレースをさせたいという人間サイドの試行錯誤との戦いでもあった。
だから、3歳時の目立った成績といえばプリンシパルステークス勝ちくらいだったし、マイルチャンピオンシップを敗退(15着)したあとに武豊を初めて鞍上に迎えて香港に遠征したときも、今から思えば驚くほど周囲は静かだった。
だから、香港国際カップを5着に敗れて帰国したときも、「まぁ、そんなもんだ」といった雰囲気で、マスコミやファンからも地味に扱われていただけだった。

ただ、この香港でこの馬に取りつかれた男がいる。
5着に敗れたにも関わらず、「化け物だ」とつぶやいた武豊。
天才の名をほしいままにし、騎乗依頼が殺到する中から乗りたい馬を選ぶというポジションにいる男が、香港遠征のあと、橋田師にサイレンススズカの継続騎乗を申し出ている。
武豊には分かっていたのだと思う。彼は抑えたり控えたりしない方がいい、気持ち良くレースをさせてやればとんでもないスピードを発揮できる。

明けて古馬となったサイレンススズカの初戦は、東京競馬場のバレンタインステークス。このただのオープン特別のために、武豊は東上している。
結果は逃げて2着に4馬身差の完勝。続く中山記念ももちろん逃げて1馬身3/4差で勝ち、小倉大賞典も3馬身差で重賞連勝をレコードで飾る逃走劇。
この頃から影をも踏ませぬ逃亡劇に注目は集まり出したが、やはり相手が弱いという評価は常につきまとっていた。
そんな中挑んだのが金鯱賞。相手は大幅に強化されていた。
4連勝中の菊花賞馬マチカネフクキタル、重賞2勝を含む5連勝中のミッドナイトベット、重賞1勝を含む4連勝中のタイキエルドラドなどが相手となり、サイレンススズカの真価を問うレースとして注目を集めた。
ただ、彼らは引き立て役にもなれなかった。
好ダッシュからいつものように後続を引き離し始め、向こう正面では10馬身差。そして、4コーナーを回ってくるサイレンススズカが驚くことにさらに差を広げ始めたくらいから、場内から大きな拍手と喝采が巻き起こり、ゴール手前50mで武豊は小さくガッツポーズをした。
重賞では珍しい大差勝ち、中京2000のレコードを10年降りに短縮した時計は1分57秒8。
もはや誰も彼の強さを疑わない。間違いなく中距離では日本最強に上り詰めた瞬間だった。

当初のローテーションではこの金鯱賞で夏休みに入るはずだったのだが、人気急上昇のサイレンススズカは宝塚記念の人気投票でも6位に上がり、体調も良かったことから宝塚記念に出走する。
武豊はエアグルーヴという歴史的牝馬の先約があり、鞍上には南井克巳。
2200メートルの距離を考え、南井は4コーナーで一度後続を引き付けるという、武豊とは違った逃げ方をしたが、これが奏功したのかエアグルーヴ、ステイゴールドの追撃をなんとか振り切り、G1初勝利。
結果的にこれがサイレンススズカにとっての唯一のG1勝ちとなるのだが、彼のキャリアにとっての最高峰はここではない、と僕は感じる。

秋を迎え、初戦は毎日王冠。
サイレンススズカの出走で回避が相次ぎ、9頭立てとなったこのレースだが、打倒サイレンススズカに向けて勇躍出走してきたのが2頭の無敗の3歳馬、グラスワンダーとエルコンドルパサー。
『伝説のG2』が、幕を開ける。
サイレンススズカは59kgを背負い、前半1000mを57秒7で飛ばす。
4コーナーを回り、勝ちに動いたグラスワンダーが脱落し、自分の競馬に徹したエルコンドルパサーを2馬身半退けて、レコードに迫る1分44秒9のタイムで彼がゴールに飛び込んだ瞬間、僕は「あぁ、彼はその先へ行くんだ。もっともっと先へ行くんだ」と感じた。

サイレンススズカ2


この感覚はとても言葉にしづらい。
彼のスピードやペースを時計や数字に置き換えても、上手く伝わらないように思う。
でも、僕は確かに感じたのだ。
サイレンススズカは、次元を超えた、その先へ行ける馬なんだ。

このあとの天皇賞・秋のレースを、僕は一度しか見ていない。
アルバイト中だった僕はレースを生では観られなかった。競馬中継を観にいった社員のおじさんが顔面蒼白で店に戻ってきたときのことは、よく覚えている。
「大荒れだよ…」
と言った彼の言葉の意味を、僕は上手く理解できなかった。
アルバイトを終えて部屋に戻り、録画してあったレースのビデオを観る。
いつものように、いや、いつも以上に差をつけて逃げるサイレンススズカ。前半1000mは驚愕の57秒4。
そう。いつもと同じ。気持ち良さそうに、スピードに乗って、サイレンススズカは逃げていたのに…。

大欅の向こうから姿を現した瞬間の彼は、その後もしばらく僕の脳裏に焼き付いて離れなかった。
しばらくは府中のどのレースを見ても、大欅の後ろに一瞬隠れた馬たちが、無事にもう一度姿を現してくれることだけを願った。
油断すると、あの時の彼の姿がよみがえった。
粉々に砕けた足で懸命にコースの外側に向かい、後ろから迫る他馬から武豊を守ろうとしていた。
もう2度とあのレースは観ない。そう誓った。

そういう人は多いと思う。
あの天皇賞で、オフサイドトラップがゴールを駆け抜けた瞬間をちゃんと見ていた人が、果たして14万大観衆の中にどれほどいただろうか。

左前脚手根骨粉砕骨折。競走中止。予後不良。安楽死。

武豊はその晩自棄になってワインを煽り、橋田師は主のいなくなった馬房の寝わらで泣き崩れた。


僕たちはサイレンススズカに、人間が作り出したサラブレッドを超えた、究極のサラブレッドを見ていた。
折り合いや位置取りなどといった駆け引きを必要とせず、ただ馬の気持ちに任せて走れば一番速くて、強い。差すとか逃げるとか追い込むとか関係なく、ただ単純に誰もついて来れない。
それこそ、理想のサラブレッドだろう。
芝2000mのレースで前半を57秒前半、あるいは56秒台で通過し、後半を1分弱でまとめる。走破時計は1分55秒台。人間の考えでは、そんなサラブレッドはあり得ない。
それを超える存在へ。その先の扉を開いてくれる、理想のサラブレッドへ。
この扉を開きかけて、サイレンススズカは文字通り「誰も届かないところ」へと逃げていってしまった。

僕は今でも彼の姿を追い求める。
でも、彼は快速を飛ばして、もう、後姿すら見えない。
だから、これまでのレースと同じ、彼は誰にも差されることなどないのだ。永遠に。

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衝撃のSS革命

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初年度からベガで桜花賞とオークス、ウィニングチケットでダービーを獲ったトニービン。その翌年に、こちらも初年度で3冠馬ナリタブライアンを送り出したブライアンズタイム。
でも、その翌年に初年度産駒を送り出したサンデーサイレンスの衝撃は、上記2頭よりもずっと上だった。

違いは層の厚さだった。
実に初年度の産駒32頭中20頭が勝ち上がり、プライムステージが札幌3歳ステークス(現2歳ステークス)で重賞初勝利、初G1勝利はフジキセキの朝日杯3歳ステークス(現朝日杯FS)。4歳牝馬特別(現フィリーズレビュー)を勝ったのはサイレントハピネスで、桜花賞は2着ダンスパートナー、3着プライムステージ。オークスはダンスパートナーが勝利した。
産駒の中でも飛びぬけて評価の高かったフジキセキが無敗で弥生賞を制してリタイアしてしまったあとも、皐月賞をジェニュイン、ダービーをタヤスツヨシが勝利。
僕たちが驚いたのは、まさしくその層の厚さにだった。

サンデーサイレンスはアメリカの2冠馬。良血イージーゴアと繰り広げられた激戦は有名だが、アメリカでの種牡馬としての評価はイージーゴアに完敗で、結果的に社台が種牡馬として購入。25億円のシンジケートが組まれた。
そして、いきなり上記のような大爆発。
その後も快進撃はとどまるところを知らず、1995年から2007年まで13年連続してリーディングサイアーの座を守っている。

どうしてここまで大成功したのだろう。
サンデーサイレンスは、その産駒を振り返れば分かるとおり、母系の特徴を最大限に引き出し、さらにそこに自身の血の強さを加えてきたのではないかと思う。
代表産駒を数え上げることなど不可能だけれど、例えばダンスインザダークがいればデュランダルがいる。スペシャルウィークがいれば、ビリーヴがいる。ゴールドアリュールのようなダート馬もいるし、サイレンススズカのような快速馬もいる。あるいは、トゥザヴィクトリーのような芝・ダート兼用馬も。
さらには牡牝で3冠馬(ディープインパクトとスティルインラブ)を送り出している唯一の種牡馬でもある。
このことは、サンデーサイレンスの血が(おかしな言い方かもしれないが)いかに柔軟だったかを物語っている。

残念ながら2002年5月、蹄葉炎を発症し、8月19日に衰弱性心不全のため死亡したが、その晩年にもダイワメジャーやハーツクライといった一流馬を送り出し、ラストクロップの1世代前に最高傑作ディープインパクトを送り出したことからも分かるように、その血が年齢とともに衰える傾向も見えなかった。

この偉大な種牡馬が日本競馬に残してくれた財産はとてつもなく大きい。
大きすぎて困るくらいだ。(種牡馬にも繁殖牝馬にもSS系があふれ返っている)
でも、この財産をきちんと使って、日本の競馬界は世界に打って出なければならない。ディープインパクトの無念を、晴らさなければならない。
そして、この偉大な血を世界に広めることこそが、彼に対する最大の恩返しになると思うのだ。

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第58回安田記念 回顧

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ウオッカの鮮やかな復活勝利。
ウオッカの輝きだけが眩しい。そんなレースとなった。

ドバイ帰りの寂しい馬体だったヴィクトリアマイルから、8kg増やしての迫力ある馬体。好スタートから3番手、道中も終始4〜5番手を追走する岩田の好判断。
そして、それに見事な形で答えたウオッカ。
4コーナー過ぎ、内から一瞬の内に3馬身突き抜けたときの脚には、鳥肌が立った。
それにしても、オークスのトールポピーといい、調子が落ちると長引く傾向のある牝馬を短期間で立て直す角居調教師の手腕は見事と言う他ない。
ウオッカの復活は競馬界にとって、とても明るいニュースとなる。このあとは宝塚記念を回避して、秋に備えるという判断も好ましい。
秋の府中。天皇賞で、ジャパンカップで、もう一度鳥肌の立つ走りを待っている。

2着は香港のアルマダ。前評判通り、直線早めの先頭から(ウオッカには一瞬で置き去りにされたが)粘る粘る。
東京競馬場をよく知る名手ホワイトの騎乗も頼もしかったし、持ち味は存分に発揮したが、いかんせん相手が悪かった。

3着に、こちらも内を突くファインプレイで福永が導いたエイシンドーバー。
福永はこういう伏兵馬を、巧みに2〜3着に滑り込ませるのが本当に上手い。

1番人気スーパーホーネットは出負けも響いて、落ち着いてレースを運ぶことができなかった。それに、府中というタフなコースだと1400が精一杯の印象も残した。
秋のマイルチャンピオンシップではもう少し頑張れるのではないか。

スズカフェニックスも外枠から直線差し脚を伸ばす自分のレースに徹したが、外が伸びない(というか内が伸びる)馬場もあり、届かずの5着。
ただ、この馬もやはり今では府中のマイルというのは少し長いのではないか。4着エアシェイディに差し負けているし、スプリントや1400のときのように最後まで伸び切れない。

香港最強とされたグッドババはマイナス15kgの身体のせいか、輸送に弱いのか、スタート前から汗をかいてイレ込んでいた。直線でごちゃついたのも痛かった。
本来の力ではないのだろうが、17着にはちょっと期待外れだった。

第58回安田記念 展望

スーパーホーネット

ダイワメジャーがいなくなったマイル路線。さらには妹ダイワスカーレットも戦列を離れ、ウオッカは不調からすっきりとは抜け出せていない。群雄割拠というほどの高レベルではない混戦。
そんな中行われる安田記念で、今年は香港からの遠征馬3頭もすべて強力。予想の難しさに拍車をかける。

随分迷ったが、前走で驚くべき末脚を見せたスーパーホーネットに期待する。
これまでもその末脚は切れてきたが、前走京王杯SCで見せた切れ味、しかも、いつもよりも少し前目の位置取りから伸びてくる脚には驚かされた。
昨年のマイルCSではダイワメジャーに迫った馬。G1では2度の2着があるが、そろそろ戴冠かと思わせる。
輸送に弱いらしく、美浦に滞在して2度の追い切りをかけられたのも好材料。鞍上藤岡祐介も、川田に続いてそろそろ。
舞台は整った。鮮やかな差し切りを期待する。

2番手は、チャンピオンズマイルで圧倒的な強さをみせた香港馬グッドババ。ここまで5連勝中と、もはや昨年7着時とは別馬と思っていい。

そして、武豊が8枠からどういう競馬をするかが興味深いスズカフェニックス。
今の府中は直線外から差し切るのがなかなか難しい馬場。いくら32秒台の末脚があるとはいえ、やはり頭からは狙いにくい。

ウオッカに、岩田が起用された。
こちらもどういう騎乗をするのか、とても楽しみではある。ただ、他馬に比べてローテーションが厳しい。
今年4戦目だが、そのうち1戦はドバイ遠征。さらに、ドバイを狙っていたために、有馬記念から京都記念まであまり休めていない。上がり目があるのか。

その他では、やはり香港のアルマダとブリッシュラック。ここを狙いすました感のかるエイシンドーバーとエアシェイディ。ようやくG1の舞台に辿り着いたオーシャンエイプス。東京得意のハイアーゲーム。昨年の3着馬ジョリーダンスと、同じく2着馬コンゴウリキシオーの逃げ残りまで警戒する。何しろ、ほとんどの有力馬が後ろからなのだから、気持ちよく逃げられたときは恐い。

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