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その先へ

サイレンススズカ1

今でも、たまにサイレンススズカのことを思い出す。
今年の秋で、もうあれから10年になる。

サイレンススズカは新馬戦を圧勝したあと、すぐに弥生賞を使われ、2番人気に支持されている。それだけ関係者やファンの期待は高く、橋田満師が強くダービーを意識していた証拠だ。
ただ、この弥生賞ではゲート内で暴れて、挙句の果てにはゲートをくぐって出てしまい、外枠発走。さらには出遅れて、8着。
このレースに象徴されるように、ダービー(9着)にこそ駒を進めたものの、3歳時のサイレンススズカは有り余るスピードに気性が追い付いておらず、なんとか好位からレースをさせたいという人間サイドの試行錯誤との戦いでもあった。
だから、3歳時の目立った成績といえばプリンシパルステークス勝ちくらいだったし、マイルチャンピオンシップを敗退(15着)したあとに武豊を初めて鞍上に迎えて香港に遠征したときも、今から思えば驚くほど周囲は静かだった。
だから、香港国際カップを5着に敗れて帰国したときも、「まぁ、そんなもんだ」といった雰囲気で、マスコミやファンからも地味に扱われていただけだった。

ただ、この香港でこの馬に取りつかれた男がいる。
5着に敗れたにも関わらず、「化け物だ」とつぶやいた武豊。
天才の名をほしいままにし、騎乗依頼が殺到する中から乗りたい馬を選ぶというポジションにいる男が、香港遠征のあと、橋田師にサイレンススズカの継続騎乗を申し出ている。
武豊には分かっていたのだと思う。彼は抑えたり控えたりしない方がいい、気持ち良くレースをさせてやればとんでもないスピードを発揮できる。

明けて古馬となったサイレンススズカの初戦は、東京競馬場のバレンタインステークス。このただのオープン特別のために、武豊は東上している。
結果は逃げて2着に4馬身差の完勝。続く中山記念ももちろん逃げて1馬身3/4差で勝ち、小倉大賞典も3馬身差で重賞連勝をレコードで飾る逃走劇。
この頃から影をも踏ませぬ逃亡劇に注目は集まり出したが、やはり相手が弱いという評価は常につきまとっていた。
そんな中挑んだのが金鯱賞。相手は大幅に強化されていた。
4連勝中の菊花賞馬マチカネフクキタル、重賞2勝を含む5連勝中のミッドナイトベット、重賞1勝を含む4連勝中のタイキエルドラドなどが相手となり、サイレンススズカの真価を問うレースとして注目を集めた。
ただ、彼らは引き立て役にもなれなかった。
好ダッシュからいつものように後続を引き離し始め、向こう正面では10馬身差。そして、4コーナーを回ってくるサイレンススズカが驚くことにさらに差を広げ始めたくらいから、場内から大きな拍手と喝采が巻き起こり、ゴール手前50mで武豊は小さくガッツポーズをした。
重賞では珍しい大差勝ち、中京2000のレコードを10年降りに短縮した時計は1分57秒8。
もはや誰も彼の強さを疑わない。間違いなく中距離では日本最強に上り詰めた瞬間だった。

当初のローテーションではこの金鯱賞で夏休みに入るはずだったのだが、人気急上昇のサイレンススズカは宝塚記念の人気投票でも6位に上がり、体調も良かったことから宝塚記念に出走する。
武豊はエアグルーヴという歴史的牝馬の先約があり、鞍上には南井克巳。
2200メートルの距離を考え、南井は4コーナーで一度後続を引き付けるという、武豊とは違った逃げ方をしたが、これが奏功したのかエアグルーヴ、ステイゴールドの追撃をなんとか振り切り、G1初勝利。
結果的にこれがサイレンススズカにとっての唯一のG1勝ちとなるのだが、彼のキャリアにとっての最高峰はここではない、と僕は感じる。

秋を迎え、初戦は毎日王冠。
サイレンススズカの出走で回避が相次ぎ、9頭立てとなったこのレースだが、打倒サイレンススズカに向けて勇躍出走してきたのが2頭の無敗の3歳馬、グラスワンダーとエルコンドルパサー。
『伝説のG2』が、幕を開ける。
サイレンススズカは59kgを背負い、前半1000mを57秒7で飛ばす。
4コーナーを回り、勝ちに動いたグラスワンダーが脱落し、自分の競馬に徹したエルコンドルパサーを2馬身半退けて、レコードに迫る1分44秒9のタイムで彼がゴールに飛び込んだ瞬間、僕は「あぁ、彼はその先へ行くんだ。もっともっと先へ行くんだ」と感じた。

サイレンススズカ2


この感覚はとても言葉にしづらい。
彼のスピードやペースを時計や数字に置き換えても、上手く伝わらないように思う。
でも、僕は確かに感じたのだ。
サイレンススズカは、次元を超えた、その先へ行ける馬なんだ。

このあとの天皇賞・秋のレースを、僕は一度しか見ていない。
アルバイト中だった僕はレースを生では観られなかった。競馬中継を観にいった社員のおじさんが顔面蒼白で店に戻ってきたときのことは、よく覚えている。
「大荒れだよ…」
と言った彼の言葉の意味を、僕は上手く理解できなかった。
アルバイトを終えて部屋に戻り、録画してあったレースのビデオを観る。
いつものように、いや、いつも以上に差をつけて逃げるサイレンススズカ。前半1000mは驚愕の57秒4。
そう。いつもと同じ。気持ち良さそうに、スピードに乗って、サイレンススズカは逃げていたのに…。

大欅の向こうから姿を現した瞬間の彼は、その後もしばらく僕の脳裏に焼き付いて離れなかった。
しばらくは府中のどのレースを見ても、大欅の後ろに一瞬隠れた馬たちが、無事にもう一度姿を現してくれることだけを願った。
油断すると、あの時の彼の姿がよみがえった。
粉々に砕けた足で懸命にコースの外側に向かい、後ろから迫る他馬から武豊を守ろうとしていた。
もう2度とあのレースは観ない。そう誓った。

そういう人は多いと思う。
あの天皇賞で、オフサイドトラップがゴールを駆け抜けた瞬間をちゃんと見ていた人が、果たして14万大観衆の中にどれほどいただろうか。

左前脚手根骨粉砕骨折。競走中止。予後不良。安楽死。

武豊はその晩自棄になってワインを煽り、橋田師は主のいなくなった馬房の寝わらで泣き崩れた。


僕たちはサイレンススズカに、人間が作り出したサラブレッドを超えた、究極のサラブレッドを見ていた。
折り合いや位置取りなどといった駆け引きを必要とせず、ただ馬の気持ちに任せて走れば一番速くて、強い。差すとか逃げるとか追い込むとか関係なく、ただ単純に誰もついて来れない。
それこそ、理想のサラブレッドだろう。
芝2000mのレースで前半を57秒前半、あるいは56秒台で通過し、後半を1分弱でまとめる。走破時計は1分55秒台。人間の考えでは、そんなサラブレッドはあり得ない。
それを超える存在へ。その先の扉を開いてくれる、理想のサラブレッドへ。
この扉を開きかけて、サイレンススズカは文字通り「誰も届かないところ」へと逃げていってしまった。

僕は今でも彼の姿を追い求める。
でも、彼は快速を飛ばして、もう、後姿すら見えない。
だから、これまでのレースと同じ、彼は誰にも差されることなどないのだ。永遠に。

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コメント

いやぁ、語り始めると止まらないね。
伝説となった快速馬、サイレンスズカの話は本当に、胸も目頭も熱くなる。
彼の血を受け継ぐ仔がこの世にいないという事実もまた、非常に残念なことだね。エアグルーヴやトゥザヴィクトリーとの仔がどんな走りをするのか見てみたかった。
  • |2008-08-04|
  • ryuu #xKxFEW9U
  • URL
  • 編集 ]
いやぁ、止まらない・・・苦笑
書いてて泣きそうになるもんね。この感情移入、なんとかならないものかね。
本当にサイレンススズカの血は残してあげたかったなぁ。
  • |2008-08-05|
  • tell #-
  • URL
  • 編集 ]

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